活動背景

ごみとして捨てられた残飯で空腹を耐える子どもたち

近年、フィリピンは高い経済成長率を維持していますが、貧しい地域で生活する人びとは、その恩恵を受けられていません。フィリピン全国栄養調査(2018年)の結果によると、5歳未満の子どもの30%(約350万人に相当)が低栄養状態にあり、その割合は2003年の34%からほぼ改善されていません。

特に、かつて「スモーキーマウンテン」と呼ばれたごみ処分場が存在していたトンド地区の中で、「ハッピーランド」「ヘルピング」「アロマ」と呼ばれる3つの区域で構成されるマニラ湾沿いのごみ処分場地域は、マニラ市の中で最も貧しいと言われています。人口約3万人の多数が、真っ黒な泥とごみの上にビニールシートやプラスチックごみを材料として住処をつくり、不衛生な環境の中で生活しています。

 

子どもを含む多くの人びとは、ごみとして投棄されたものを回収し、換金することで生計を立てており、その収入は1日あたり200ペソ(約400円)しかありません。そのため、ごみとして捨てられたファストフードの残飯を洗って再加熱した料理(現地語で「パグパグ」)を食べて、空腹をしのぐ子どもたちが多く存在します。

当団体実施の身長・体重測定調査(2020年9月、トンド地区にて実施)の結果によると、約56%の5歳未満の子どもが低栄養状態であることが分かりました。様々なごみや動物の糞尿が入り混じった泥水が広がる不衛生な環境は、下痢症や寄生虫感染症を引き起こします。また、親の栄養や衛生に対する意識の低さや知識不足、適切な母子保健サービスの欠如などの様々な要因が、トンド地区の子どもたちの栄養状態に影響を及ぼしています。

現地の声
事業地に暮らす女性:
私は5人家族で、旦那と小さい子ども3人でトンド地区に暮らしています。旦那はごみの仕分けの仕事をしており、私は仕事をしていません。旦那の収入は1日あたり約400円(最低賃金の半分以下)なので、子どもに毎日ご飯を食べさせてあげることができません。1日に1食しか食べない時もあります。私も本当はしたくないですが、お金がない時には、ごみ袋をあさって食べ残しのファストフード店のフライドチキンを家に持ち帰り、それを再調理して子どもに食べさせます。それを食べて、子どもが美味しいと言っているのを聞くと、何とも言えない気持ちになり、ちゃんとしたフライドチキンを食べさせたいと思います。何度か子どもが下痢になったことがありましたが、私たちには病院に連れていくことも、薬を購入することもできませんでした。辛そうな子どもの様子を見て大変悲しい気持ちになりました。

活動内容

ケソン市最大のごみ処分場地域であるパヤタス地区で培ってきた栄養改善や保健・衛生環境改善のノウハウを活用し、2019年よりマニラ市トンド地区の子どもたちの栄養状態の改善に取り組み始めました。

マニラ市が運営する保育園の場所を借りて、地域ボランティアとともに、5歳未満の低栄養状態の子どもたちへの給食活動を実施しています。給食活動は、現地のNGOやフードバンクとも協働して運営しています。子どもたちの栄養状態の経過を把握するために、当団体の看護師職員監修のもと、地域ボランティアが定期的に身長体重の測定や、下痢症や寄生虫感染症を罹患した子どもの見守りも行っています。

 

また、給食活動に参加する子どもの親を対象に、安価で栄養価の高い料理の作り方研修(例:奇跡の葉と呼ばれるモリンガを活用した料理は、タンパク質やビタミン、ミネラルが豊富で、国連でもSDGsの2番目である飢餓を終わらせる切り札とされています)、子どもを病気から守るための保健・衛生研修、地域住民全体を対象にした栄養・保健・衛生の啓発活動も実施しています。

さらに、地域ボランティア主体で、自治体と協働して、母子保健サービスの整備にも取り組んでいます。

活動の成果

2019年~2021年4月末までで、87名の子どもが給食活動に参加し、12名の子ども(全体の14%)が低体重から標準体重に改善したとともに、継続的に給食活動に参加した58名の子どもの内、78%の子どもの栄養状態が改善されました。給食活動は地域ボランティア11名が中心となって運営しており、地域の母親の寄付や他NGO・地元のフードバンクの協力を得て持続的に運営されるようになりました。また、地域の母親81名が安価で栄養価の高い料理の作り方の知識を身につけ、母親85名が新型コロナウイルス感染予防(正しい手洗いの方法やマスクの装着方法等)、下痢の対処方法や応急処置について等、子どもを病気から守るための知識を得ました。

 

現地の声
活動に参加した女性:
私は3歳の子どもがいますが、経済的な理由で、ごみとして捨てられていたファストフードの残飯を洗い、再加熱した料理(現地語で「パグパグ」)を、子どもに食べさせていました。そのため、子どもが下痢症を患って、すごく痩せて体重が減ってしまったことがあります。でも、アイキャンの研修に参加して、こんなに安くても栄養のある料理を作れることを学びました。今は、スープの中にモリンガの葉を入れるようにしています。また、アイキャンの給食活動に参加するようになって、近所の母親との繋がりも強くなったと思います。給食活動で元気がない子どもがいた場合、何か病気ではないかと皆で気に掛ける等、地域全体で子どもたちを守り育てる環境が生まれてきています。

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