活動背景
「暴力の文化」が蔓延する社会で、心の傷や憎しみを抱く紛争地の子どもたち
フィリピン南部のミンダナオ島では、政府軍と反政府軍(モロ・イスラム解放戦線:MILF)との間で、50年以上武力衝突が続いています。この紛争により、過去20年間で約12万人が殺害され、約200万人が土地を追われました。長年続く武力衝突や情勢不安により、地域の発展は妨げられ、同島中部のバンサモロ自治地域(BARMM)の貧困率は61%と、フィリピン全国の平均貧困率16.6%の約3.7倍となっており、保健・医療・教育インフラ等は、同国最低水準となっています(2018年国勢調査)。
長年の争いにより、子どもたちは十分な教育を享受できず、職業選択や就業の機会も極端に限られており、若くして武器を手に取る子どもも少なくありません。また、学校に行けずマドラサ(イスラム神学校)のみに通ってきた子どもや若者は、過激派によるリクルートの対象になってきたことが明らかになっています。学校教育の不在は、暴力的過激主義を助長し、紛争を生み出す直接的原因になっています(2017年ユニセフ報告書)。
ミンダナオ島の紛争は、政府と反政府軍との政治的対立だけでなく、土地や地元政治に関する一族同士の抗争(現地語で「リド」)によっても激化してきました。子どもの喧嘩や隣近所の家畜を巡る口論でさえもリドに発展することもあり、地域には「暴力の文化」が蔓延しています。
リドの解決と調整は、行政機関や地域リーダー等が担っているものの、紛争調停の専門知識・技術を有していないことで、根本的な解決に繋がることは少なく、憎しみが代々受け継がれて世代を超えています。
活動内容
同島の三大紛争多発地帯において、地域で持続的に平和教育を実践する「平和の学校(School of Peace)*」を建設するとともに、バンサモロ自治地域を含む州及び市・町レベルの教育省に対して、平和教育推進のための計画策定及び各学校の平和教育実践のモニタリング評価の研修を行いました。
学校の教師に対しては、通常の教科において平和の価値を盛り込んだ授業案作成研修や、平和活動が含まれた学校年間計画の策定のための研修、争い事を平和的に仲裁するための研修を実施して、「平和の学校」の浸透を図りました。
また、人びとが紛争の発生を防ぎ、争いが小規模なうちに解決できるようになるために、地域の争いの解決において重要な役割を果たす行政機関の委員会、村の有力者や宗教リーダー、武装解除が進む前のMILFメンバーに対して、紛争調停のための能力強化活動を実施しました。
さらには、村の役員に対して平和の自治と平和活動を盛り込んだ開発計画の策定のための研修を実施し、地域内において「平和の文化」を浸透させるための活動も実施しました。
*「平和の学校(School of Peace)」は、地域住民の参加も得て持続的に平和教育を実践している学校を指し、現地教育省にも採用されている呼称です。当団体とミンダナオ島ソクサージョン地方の教育省との協働で作成された「平和の学校のための評価ツール」を用いて、各学校の取り組みを評価し、基準を満たした学校のみ、正式の「平和の学校」として認められることになっています。
活動の成果
「平和の学校」では、対話を通して相手の立場を理解し、関係性を維持していく「平和の文化」が浸透してきました。教師の紛争を仲裁する能力が向上したことで、生徒は教師の指示や学校の規則に従い、学校に銃を持ち込むことを自粛するようになったと同時に、生徒間の争いが一族間の抗争(リド)に発展するケースが発生しなくなりました。
このように、地域内の紛争が未然に防止されるようになったため、「平和の学校」が、地域の平和にも大きく貢献していることが確認されました。
また、行政機関や地域リーダー、武装解除が進む前の反政府軍(MILF)メンバーを対象にした紛争調停のための能力強化活動が、地域内の紛争防止及び紛争の早期解決に貢献していることが確認されました。
特に顕著な成果が見られたピキット町のある村では、紛争調停能力強化に関する事業実施前(2014年)には、地域内で発生した47件の紛争のうち、約45%が村役員によって解決されていましたが、事業実施後(2018年)には、紛争発生件数が15件まで減少し、その内の約86%が村役員によって、研修で習得した「対話」の技術を用いて解決されました。さらに、MILFのメンバーが、事業実施以前より長年継続して解決されずにいた8件のリドを、「対話・仲裁・交渉」の技術を用いて解決されたことが確認されました。
活動に寄付する
現在ミンダナオ島での活動は行っていませんが、フィリピンのマニラ近郊での活動に寄付をすることができます。