活動背景

学校で学ぶことのできない先住民の子どもたち

フィリピンには、1,400~1,700万人の先住民が存在し、その半数以上がミンダナオ島に住んでいます。同島は、長年の不安定な政治状況や社会投資の欠如により、貧困率、そして教育・保健・医療等の社会サービス全般の指標において同国最低水準となっています。その中でも山奥に住む先住民は、社会サービスを利用する機会が極めて制限されており、出生登録もされず、統計上存在しない子どもたちが数多く存在し、公教育を受けることができていない状態です。

フィリピン政府は、2011年頃より先住民地域における教育サービス充実のための枠組みを制定し、各先住民グループに適したカリキュラムや教材の作成を開始しましたが、同島に存在する18の先住民グル-プへの対応は不十分です。

 

また、山奥では、学校の設備が十分に整備されておらず、雨天時には雨水が教室に侵入したり、電気が通っていないため教室内が暗くなり、授業を中断せざるを得ない状況があります。さらに、経済的な理由で学用品を購入できなかったり、先住民地域の生活とは関連性の低い事柄を学ぶことに興味を持てず、通学を途中で断念してしまうケースもあります。

このような教育課題に加え、保健・衛生の課題が、子どもの教育の権利をさらに脅かしています。先住民地域では、親世代から現在の子どもに渡って、保健や衛生の知識を得る機会に恵まれず、子どもたちは自分たちや動物の糞尿で汚染された水源の水を、ためらうことなく利用しています。そして、基本的な手洗いの習慣がないことや、怪我や病気に対して適切な処置がされないことにより、手足の痒み、腹痛や下痢を訴え、早退や欠席を繰り返す子どもが多く存在します。

現地の声
先住民地域の教師:
私が教師として2014年にこの村に初めて来たときは、名前のない子どももおり、出生登録をしている住民は誰もいませんでした。そのため、ここの村に住む人々は政府の社会サービスを全く享受できず、約98%の住民が読み書き・計算ができず、子どもは一度も教育を受けたことがありませんでした。そのため、山のふもとで先住民地域で採取できるアバカ(麻)を売りに行った際、お釣りの計算でだまされて、アバカを売ったにも関わらず、赤字で村まで戻ってくるということもありました。また、この地域では衛生の概念も広まっておらず、汚水された水を飲み、下痢になって命を落とす子どもや、病院で診療を受けることもできず、軽微の疾病で亡くなる子どもも多くいると聞きました。

活動内容

現地の教育省と連携して、教育省の予算でまかなうことのできない山奥の先住民地域での学校建設や、先住民地域用のカリキュラムの作成や教師の研修等を実施しました。

また、地域住民が一丸となって、子どもの教育を守ることができるように、学校の設備の維持管理や環境改善を担当するPTAの組織化と能力強化も実施しました。その他にも、学用品の提供や電気の通っていない学校にソーラーランタン(太陽光で充電可能な吊り下げ型の照明器具)の提供も行いました。

 

さらに、地域内の保健・衛生環境が原因で教育が脅かされている子どもへの対応として、保護者を対象にした感染症の予防方法や基礎的疾病の対処方法等、保健・衛生教育を実施しました。

住民が安全な水を利用できるように、水質が保たれた水源から水を引き、先住民地域に水道を設置する活動も行いました。水道を管理する責任を持つPTA役員に対して、水道を使用する際の規則設定と規則が守られているかのモニタリング計画の考案、水道の正しい取り扱い方及び手入れ方法、壊れたときの修繕方法についての研修も実施しました。

活動の成果

2000年~2021年度4月末までで、先住民地域において合計15教室を建設し、675名が適切な環境で授業を受けることができるようになりました。教育省と連携して、2つの先住民グループに適したカリキュラム・教材を作成したことで、子どもたちの教育環境が向上しました。

 

また、3,685名の先住民の子どもに学用品を提供し、学校に通学できるようになったとともに、先住民地域の学校へのソーラーランタンの提供を通して、合計13,587名の子どもと教師が電気を利用できるようになり、雨天時に授業を中断する必要がなくなりました。さらに、合計3,196名の先住民地域の住民が、安全な水とトイレを享受できるようになったとともに、163名の保護者の保健・衛生知識が向上しました。

現地の声
先住民地域の教師:
以前は屋根に穴が開いた竹小屋で、子どもたちに授業をしていました。今は、立派なコンクリート製の教室で、授業をすることができています。雨が降っても雨水が教室に侵入してきて、授業を中断する必要もなくなりましたし、ソーラーランタンのおかげで外が暗くても授業を継続できるようになりました。
先住民地域に赴任した当時は、子どもたちとコミュニケーションを取ることが困難で、非常に困っていました。アイキャンの研修の中で、地域に住み込みをして、子どもたちが生活する地域の生活様式や文化を学んだことが特に印象に残っており、非常に貴重な経験でした。その経験があったからこそ、子どもたちの気持ちを理解できるようになりましたし、子どもたちの言語を学んで、もっと色々なことを教えたいと思うようになりました。カリキュラムと教材も、毎回の授業で参考にしています。
教育を通して、子どもたちの成長が見られるのは私にとって大きな喜びです。特に、以前はフィリピン国歌を全く歌えなかった子どもたちが、卒業式で大きな声で国歌を合唱した時は感動しました。また、保護者からも、子どもたちがトイレで用を足すようになったり、食事前に手を洗うようになったと話を聞いており、教師をしていて良かったと思います。

活動に寄付する

現在ミンダナオ島での活動は行っていませんが、フィリピンのマニラ近郊での活動全般に寄付をすることができます。