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資料:結核教育マテリアル



結核(TB)ってどんな病気?

結核という病気を、国語の教科書の夏目漱石や正岡子規に関する記述のなかで、知ったという人も多いでしょう。しかし、結核はたくさんの文学者が苦しみ、命を落としたという歴史上の病気ではありません。平成16年の日本での新登録患者は29736人、罹患率(人口10万人対の新登録患者数)23.3と、スウェーデン(4.3)の5.4倍、オーストラリア(4.8)の4.9倍、米国(5.1)の4.6倍と、日本は結核中進国なのです 。ほとんどの人が結核菌に感染してからすぐに発病せず、冬眠状態に入るので、日本では、昭和20年代に結核菌を吸い込んだ人たちが、今になって発病しているケースが多く、そこから若い人たちにも広がっています。また、路上生活者の間での結核の蔓延への対策が、日本の特に大都市での課題となっています。結核は、歴史上の病気でも、途上国の病気でもなく、私たち21世紀に生きる日本人にも、身近な病気なのです。

ICANのプロジェクトサイトであるフィリピンは、世界でも有数の結核蔓延国です。2004年推定される新規結核患者数では、世界第8位、罹患率は320(人口10万人対)です 。それは、結核は不治の病で、結核とわかると差別されるという考えがあり、病院にいかず、治療が遅れることや、処方される薬の数が足りないなど不適切な治療、また症状がおさまったとき服薬をやめてしまうことなどが結核蔓延の理由です。フィリピン国内で、結核は死亡原因の第6位に位置します。

結核は、HIV/AIDS、マラリアとともに三大感染症と呼ばれます。しかし、結核は、HIV/AIDSなどと比べて地味な病気なので、国連機関からも長い間無視されてきていました。その間、結核は世界中でじわじわと拡大していったのです。ついにWHOは、1993年に「結核の非常事態宣言」を発表し、結核対策の軽視、HIV感染症の流行、多剤耐性結核菌の出現等により、結核による健康被害が世界各地で拡大していることについての警告を行いました。そのなかで、「結核の流行の鎖を断ち切るのは治療であり、治療こそが最善の予防」と治療の大切さを世界中に呼びかけています。

結核の基礎知識

結核とは?
・ 結核菌によって引き起こされる病気です。結核は、人から人へうつっていく病気です。
・ 結核は、喘息や肺炎とは違う病気です。遺伝する病気でもありません。
・ 結核は、発病した人と食事を共有してもうつりません。
・ 現在はちゃんと治療すれば完治も可能な病気です。

■結核菌はどこにいる?
・ 治療を受けていない結核患者が結核菌を運びます。そのような患者は、せきやくしゃみをしたり、話したり笑ったりすることで、結核菌を空気中に撒きます。空気中に撒かれた結核菌は、空気中を浮遊します。

結核菌はどうやってうつって、発病するの?
・ 結核菌は、目に見えない小さなもので、人が結核菌を含む空気を吸うことによって体内に入ります。
・ 結核菌を吸い込んだすべての人が発病するわけではありません。元気な人の体は、免疫によって結核菌が活動するのを抑えることができるからです。菌を吸い込んでも発病するのは10人に2人程度です。発病しない人は、結核感染者ではありますが、菌を撒くことはありません。
・ 免疫は、HIV感染、糖尿病、胃潰瘍や胃切除、腎疾患、強いストレスなどによって弱められます。これらの患者の体内に潜んでいる結核菌は活発になり、肺やその他の臓器を攻撃します。こうして、結核を発病し、発病した人は、治療をしないと結核菌を撒いてしまいます。結核に感染し、発病したとしても、痰の中に結核菌を出していない軽症の患者の場合は、他人にうつす恐れはありません。

結核(肺結核)の症状は?
・ 結核を発病した人は、3週間長引く咳、血痰、微熱、胸痛、寝汗、やせ、その他の風邪の症状に襲われます。
・ 肺結核を発病したかどうかを確かめるには、顕微鏡で痰を検査する(痰の塗抹検査)、痰から取った結核菌の培養(これは少量の結核菌でも発見できる方法です)、そして胸部レントゲン検査とういう方法があります。

どうしたら結核菌から体を守れるの?
・ 日光に当たることによって、結核菌を殺すことができます。なるべく日当たりが良く、換気の良い部屋で生活しましょう。換気が悪い人ごみの中や、暗くじめじめとした場所に長時間いることは避けましょう。
・ 飲酒、喫煙は、免疫を低下させます。控えましょう。
・ もし、咳をしたとき血が出たら、医師や保健師に相談しましょう。他の患者からもらった薬を服用してはいけません。
・ ひとにうつす可能性が高いのは結核と診断される前、結核の薬を飲む前です。3週間服薬した結核患者は、ひとにうつす可能性は低いので、そのような患者を避けることはやめましょう。

どうしたら、結核を治せるの?
・ 結核を治す最大の決め手は、毎日きちんと薬を飲み続けること。
・ 初めて治療を受ける人なら、複数の薬を6〜9ヶ月間服薬すれば、ほとんど再発のないほど完全に治せます。
・ 結核の薬を単独で使うと、薬に対して耐性ができてしまいます。
・ 一度耐性菌をつくると、もう二度とその薬は使えません。
・ 薬をのみ始めて、1〜2ヶ月すると、咳や微熱などの症状は治ります。しかし、この時点では、まだ結核菌は弱っているだけです。ここで「治った」と自分で判断して服薬をやめると、菌は再び増殖を始めます。服薬を中断し症状をぶり返して、また薬を飲み始めても耐性ができて薬が効かなくなってしまいます。

効果的な結核治療法―DOTS

毎日決められた薬を6〜9ヶ月間きちんと飲み続けることが結核治療の最大のポイントです。結核を治すことは、同時に結核の流行を防ぐことを意味します。

しかし、多くの場合、様々な理由で、自己管理によって薬を飲む治療では、処方された治療を完結できていません。例えば、薬を飲み続けて1〜2ヶ月経つと、症状がなくなってくるのですが、症状がないのに毎日正しく服薬を続けるには、簡単ではありません。また、軽症の人は、症状がないため薬をやめる割合が特に高いことが調査でわかっています。そして、服薬を中断することによって、薬がまったく効かなくなる多剤耐性結核菌(Multi-Drug Resistant TB:MDR-TB)をつくる恐れがあります。多剤耐性結核菌にかかると完治できません。

このような問題点に、DOTは効果的な治療法です。DOT(Directly Observed Treatment) は、患者が治療を確実に完結するために、患者が正しい量の正しい薬を、正しい時間に飲むことを監視者がその場で確認するという方法です。DOTの以外にDOTSという言葉があります。この2つを混乱する人もいると思いますが、DOTSとは、WHOによって推奨されたDirect Observed Treatment Short-course(直接監視下短期化学療法)のことです。現在では、DOTSは、WHOの結核対策戦略(DOTS戦略)のことを指します。

DOTS:5つの要素
(1) POLITICAL COMMITMENT:結核対策への政府の強力な取り組み
(2) DETECTION:有症状受診者に対する喀痰塗抹検査による患者発見
(3) TREATMENT:少なくとも、全ての確認された喀痰塗抹陽性結核患者に対する、適切な患者管理(直接監視下療法)のもとでの標準化された短期化学療法の導入
(4) DRUG SUPPLY:薬剤安定供給システムの確立
(5) MONITORING:整備された患者記録と報告体制に基づいた対策の監督と評価

DOTS戦略は、DOTを含むWHOの5つの要素からなる総合的な結核対策戦略といえます。

DOTS:鍵となる5人(薬剤供給管理者、医者、役人、治療パートナーそして結核患者)
(1)薬剤供給管理者は、結核の薬を発注したり、クオリティ管理の責任を追っています。
(2)医者は、TBコントロールのモニタリングや、TB患者の数を記録する結核のスペシャリストです。
(3)役人は、国の保健関係の省庁に務め、国として結核対策を最優先に取り組む役割があります。
(4)治療パートナーは、ナースや助産婦、保健士など保健所スタッフ、コミュニティ保健ボランティア、DOTSで治った元TB患者、家族などで、決められた数の薬を患者に与え、患者の服薬が毎日行われていることを確認します。治療パートナーは他にも、患者のモチベーションを上げたり、中断した人に治療再開を促したり、週に一回の患者と医療従事者とのミーティングを開いたりします。
(5)患者は、治療のためにヘルスセンターやクリニック、保健所などに通います。患者の家がヘルスセンターなどに通えない距離にある場合は、近くの治療パートナーの家で行います。患者が重症で動けない場合は、患者の家で行われることもあります。

WHOのHPでアドボカシー用のフィルム(日本語バージョン)を見ることができます。
DOTSの効果などを簡単に知ることができるので、アクセスしてみてください。
The human face of TB

絵:TB(結核)くんと鍵となる5人

パヤタスの結核の状況

パヤタスでは、結核が流行しています。ごみ山から出る化学物質や不衛生な環境に加えて、栄養不足のため、住民の免疫が弱まっています。そして、パヤタスにある家は、大きな家もありますが、ほとんどの家は小さく、なかは暗く換気が悪くて、じめじめとしています。そのような家に家族8〜10人、それに親戚も一緒に住んでいる場合もあります。パヤタスは結核が流行して当然の環境です。

ICANのパヤタスヘルスケアプログラムでは、パヤタス住民の保健ボランティアが働いていますが、6人中4人が結核を発症、ICANのナース・マデットさんも結核にかかり、2ヶ月間薬を飲みました。また、ICANケアセンターでは栄養改善プログラムを行っていますが、その参加者の子どもたち、35人中6人、1歳〜6歳の子どもが結核治療中です。

パヤタスでは、結核はとても身近な病気です。パヤタスは、行政上パヤタスA・パヤタスBに分かれ、そのなかで第1地区第2地区…というふうに分かれています。ICANのクリニック(ICANセンター)があるパヤタスBは第4地区まであり、ICANは、ごみ山に一番近い第2地区で、毎週火・土曜にクリニックを開いています。パヤタスBには、ICANのクリニック、バランガイ(最小行政地区)ヘルスセンター本部・支部、ジャーマンドクター(NGO)のクリニック本部・支部があります。これらの医療機関では、患者は無料で治療が受けられ、薬も無料で供給しています。フィリピン政府は、バランガイヘルスセンターでDOTSを行い、結核患者に無料で薬を供給しています(NTP:National Tuberculosis Program)。

しかし、これらの医療機関が歩いていける距離にあり、全て無料であるにも関らず、そのことを知らず、医療機関に行かない結核患者がいます。また、バランガイヘルスセンターの場所やサービスを知っているのに、行かない結核患者もいます。行くのが億劫である、毎日ヘルスセンターに通う時間分その日の生活費を稼ぐ時間が少なくなる、などが理由です。このような人たちには、自分たちの健康に無関心であるという個人レベルの問題があります。

そして、ヘルスセンターに毎日通うと近所の人に結核患者だと気付かれてしまうから行きたくないという理由もよく聞かれ、ここには、結核に対する知識不足という患者自身の問題と、これもまた知識不足による結核患者差別というコミュニティレベルの問題があります。現在パヤタスでは、ほとんどの人が医療機関の位置を知っています。それでも、未だに医療機関で受けられるサービスを曜日や時間ごとにはっきりとわかっていない人もいます。しかし、最も多いのが、全ての情報を知りつつ、医療機関に行かない人々です。

空気感染の結核を放置することは、患者自身の健康だけでなく、患者を取り巻く人々の健康に関わる危険な行為です。結核の流行を断ち切るためには、このような人たちが、結核の治療を開始し、継続し、完了することが必要です。そのためには、結核患者を発見すること、結核の教育をすること、治療を受けるために医療機関の正しい情報を伝えることが重要です。

ICANのクリニックで結核患者を発見することもあり、そのような患者にはバランガイヘルスセンターでの治療を促しています。また、教材を使って結核教育を行っています。ICANが月に一度行っているアウトリーチは、BCG接種を行いながら、結核患者を発見し、ヘルスセンターの情報を伝え、治療を受けるように話しています。

参考資料

財団法人結核予防会結核研究所HP「結核の統計2005」
WHO HP Global tuberculosis control Annexes
Knowledge…Hope…Strength for Curing TB.TB/HIV Research Foundation, Thailand and The Research Institute of Tuberculosis, Japan Anti-TB Association
財団法人結核予防会HP「DOTS戦略とは?」

資料作成

文:ICANマニラ事務所 野秋
絵:ICANマニラ事務所 重松

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